※自分の勉強用で記事を書いています。「こんなこと常識だろ!」とか「まだまだ勉強不足だな…」な内容かもしれませんがご容赦ください。
各月に当てられている宝石、誕生石。
石に興味がないという方でも誕生石の存在はご存知の方が多いのではないでしょうか。特に女性は自身の誕生月の石を基準にジュエリーを選んだことは一度ならずともあると思います。現在の誕生石はジュエリーの販促目的が大きく占めており、よく使われるイメージもカット石やジュエリーのことが多いです。鉱物の世界の入り口として馴染みのない方でも入りやすいのが誕生石であると思い、私は誕生石を原石で描いた絵画シリーズを過去に創りました。ジュエリーのイラストが多い中、結晶の特徴や産状のわかりやすい標本を選んで描いたのはなかなか面白い試みだったと自負しております。その試みの際様々な資料を調べてみましたが大変奥深い由来があることを改めて知りました。
大元の由来は旧約聖書、出エジプト記28章17~21章に、モーセの兄弟であるアロンが神のお告げにより高僧となり、その際に着用した胸当てにはめる12個の貴石からきています。石の名前と並びは以下の通りになります。
【ヘブライ語】
●第一列 obey(オデム)、pitdah(ピトダー)、bareqet(バーレケト)
●第二列 nophek(ノフェク)、 sappir(サピール)、 yahalom(ヤハロム)
●第三列 leshem(レシェム)、 shebo(シェヴォー)、 ahlamah(アヒアマー)
●第四列 tarshish(タルシシュ)、 shoham(ショハム)、 yashepheh(ヤシェフェー)
【日本語対訳(文献により異説あり)】
●第一列 ルビー、トパーズ、エメラルド
●第二列 孔雀石、ラピスラズリ、縞瑪瑙
●第三列 オパール、メノウ、アメシスト
●第四列 カンラン石、カーネリアン、碧玉
各石の種類は古代のヘブライ語で記述されているため諸説存在します。さらにこれらにはイスラエルの12の支族の名前が彫られていたと伝えられています。石フリマでお話しさせてもらったお客様が「旧約聖書にある土地って○○の石は産出しないんだよねー」(○○の部分はアメジストだったかサファイアだったか…)とポソっと呟いたのを聞いてハッとしたことがあります。各石がどの宝石を示すのか。ヘブライ語の石名が赤だったり白だったり特徴を示す場合があり、それを元に推測で石を当てはめますのでかなり意見が分かれたりします。
ちなみに旧約聖書の一部である民数記には12の支族にはふさわしい石と旗の色が決められており、旗の色と石の色は呼応していることが多いです。そこから対応する石は以下のように推測されています(対応する部族と石の名前等も文献によって記述が異なります)。
(1)オデム(赤、部族…ルベン)
語源的に赤い石であると推測される。近隣地域でお守りとして使用され、アラビアで採掘がされているカーネリアンか?
(2)ピトダー(緑、部族…シメオン)
古代の記述からピトダー=topaziusで間違いないが、これはトパーズではなくクリソライトかペリドットを示すと考えられる。
(3)バーレケト(白黒赤、部族…レビ)
ヌビア地方ザバラ山にエメラルド鉱山があること、古代エジプトでお守りとして多用されていたことからエメラルドか緑のフェルドスパー(長石)が有力。
(4)ノフェク(空色、部族…ユダ)
ノフェクの別名でカブンクルスというものがある。これは燃える石炭の意味があるためルビーかガーネットが候補に挙がるが、古代エジプトでルビーが使われた記録がないためガーネットが最有力。
(5)サピール(黒、部族…イッサカル)
名前はサファイアを彷彿とさせるが、プリニウス等が金色の斑点のある石としているのでラピスラズリが有力。
(6)ヤハロム(白、部族…ゼブルン)
名前が「打つ」を意味するため最も硬い石であるダイアモンドと訳することが多いが、時代的に加工できたとは考えにくいためオニクス、ジャスパー、ジェードのどれかと思われる。
(7)レシェム(サファイア色、部族…ヨセフ)
もっとも謎な石。アンバーを示す名前だがヒヤシンス(ジルコン)やサファイアを示すとも考えられている。だが古代エジプトでサファイアはまだ知られていなかったはず。語感が近いエジプト語のneshemも関係するなら茶色のアゲートか?
(8)シェヴォー(灰色、部族…ベミヤミン)
どの文献もアゲートと訳されている。健康の護符として力があると信じられ、多様な紋様と形で当時人気があった。
(9)アヒアマー(ワイン色、部族…ダン)
全ての文献でアメジストと訳されている。アラビアとシリアという近隣の採掘場があり、護符としてアメジストを加工したものが発掘されている。
(10)タルシシュ(パール色?、部族…ナフタリ)
多くの文献ではクリソライトと訳す。このクリソライトは現代のトパーズを表しているがエジプトでの歴史は浅い。当時使われていたのはタルシシュの語源の街、スペインのタルテサスの黄色いジャスパーで、のちに本当のトパーズが使われるようになったか?
(11)ショハム(漆黒、部族…ガド)
ベリルやオニクスと訳されるが明確な情報に欠ける。古代エジプト人に重宝されていたマラカイトやシナイ島に鉱山があるターコイズが有力か。
(12)ヤシェフェー(あらゆる石の色、部族…アシェル)
この石が六番目に置かれていたことは間違いなく、すべての聖書は一致してジャスパーと訳している。このジャスパーはジャスパーそのものではなく、さらに価値の高い翡翠(ジェダイト、ネフライト)を指している可能性は高い。
この12種の石たちは長い月日の中で石の価値が変わったり新しく石が発見されたりして変更されていきます。ですが神を讃えるために選ばれた最初の石たちへの畏敬の念というものは後世に選ばれた石たちのそれとは比にならないくらい強いものだったはず。その最初の石たちの正体を探ることは、古代人の習慣や宗教観だけでなく石の性質や地質も絡む現代人の想像力と探究心を刺激する題材であると思います。
胸当ては防具というより装飾品として用いられ、祭事の際にはウリム、トンミムと呼ばれる白と黒の石(祭事中にお告げがある際は色が変わる)で物事を占っていました。イスラエル建国の祖となった氏族の名前を携えた石が付いた大変象徴的なこの胸当ては、実際に存在したと推測はされていますが長い歴史の中で失われたものとされています。合わせてアメリカではエルサレムにある12の門の土台に飾られている石に因んでいるという、ヨハネの黙示録が由来であるという説も存在します。
この胸当てを儀式の際に製作し使用するという習慣はなくなりましたが、自分の生まれ月の宝石を持つと災いを避けてくれるという言い伝えがポーランドに移り住んだユダヤ人の間に残っており、それから徐々に現代の誕生石の習慣に繋がるようになりました。各所にバラバラに伝わる誕生石の種類を1912年にアメリカの宝石商組合が統一し広げましたが、種類を整理してまとめたのが宝石、鉱物学者でティファニーの元副社長のフレデリック・クンツ氏になります。誕生石の習慣は世界中に広がり、日本でも1958年に全国宝石卸商協同組合によって選定されます。元の誕生石に加えて翡翠や真珠など日本で採れる宝石も選ばれているのが特徴です。
2021年12月には63年ぶりに誕生石が新たに追加されています。追加されたのは4月のモルガナイト、7月のスフェーン、12月のタンザナイト、他10種類。
目的は販促で、新型コロナの影響で打撃を受けた宝石業界を盛り上げたいためとのこと。モルガナイトはピンクのベリル族、タンザナイトは唯一無二の青紫の美しい貴石でどちらも人気があり大変華やかな石です。意外だったのはスフェーンこと楔石。高い屈折率でダイヤを凌ぐ美しい石であることは石好きの間では有名ですが、硬度が低く色も鈍いためメジャーな印象はありませんでした。理由で可愛らしかったのが2月のクリソベリルキャッツアイで、2月22日の猫の日(世界でも2月17日が猫の日)に合わせて追加されたとか。愛猫家に刺さるような理由で大変微笑ましいです(犬を飼ってる身とすれば犬にまつわる石も制定して欲しいところ…)。他追加されたもの含めた現在の日本の誕生石は以下の通り。
1月…ガーネット
2月…アメジスト、★クリソベリルキャッツアイ
3月…アクアマリン、コーラル、★ブラッドストーン、★アイオライト
4月…ダイアモンド、★モルガナイト
5月…エメラルド、翡翠
6月…真珠、ムーンストーン、★アレキサンドライト
7月…ルビー、★スフェーン
8月…ペリドット、サードオニキス、★スピネル
9月…サファイア、★クンツアイト
10月…オパール、トルマリン
11月…トパーズ、シトリン
12月…トルコ石、ラピスラズリ、★タンザナイト、★ジルコン
(★がついているのは追加された宝石)
現在こそ販促のために利用されている誕生石ですが、元を辿ると神と先祖を讃える石で後に護符という意味に変わり、現在のアクセサリーに至るまで長年人々の傍に存在してきたのがわかります。ですが元の胸当てにあった石たちの正体はまだ判明していません。古代の神秘とロマンを感じながら自身の誕生石を眺めるのもまた一興かもしれません。
参考
・図説鉱物と宝石の文化誌 伝説 迷信 象徴
ジョージ・フレデリック・クンツ著、鏡リュウジ訳
原書房
・卸売通販アルバ ホームページ「誕生石発祥の起源・歴史-ルーツを辿る」
・有限会社クロマニョン(アクセサリー制作会社) ホームページ「誕生石の歴史」
・大田原キリスト教会 ホームページ「出エジプト記28章」
・全国宝石卸商協同組合 ホームページ「Birthstone」
2024.9.13
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