※自分の勉強用で記事を書いています。「こんなこと常識だろ!」とか「まだまだ勉強不足だな…」な内容かもしれませんがご容赦ください…
鉱物のことを知るために関連している本を探すのは高校生の頃からなんとなくしており、美術大学に進学し作品作りを始めると本格的に探すようになりました。そもそも鉱物に魅了されたきっかけは小学生の時に地元の図書館で読んだますむらひろし先生の漫画を読んだことからです。独特のファンタジーの世界に存在する水晶は幼少期の私の心に忘れがたい衝撃と感動を植え付けました。「こんな世界に現実でも出会いたい…!」この想いから鉱物の絵を拙い技術と知識で描き始めたのです。絵を描くには知識や資料が必要で、高校時代から意識して探すようにしていたのですが図鑑以外で鉱物関連の小説や物語を探すのはなかなか難しいことでした。思えば人が物語を求める際、歴史、恋愛、人間ドラマ、ミステリーなどを求めるのがほとんどで生活の中で触れることの少ない鉱物の物語を作るのは非凡なこと、見つからなくて当然なのです。ですが鉱物に魅了される人は世界に必ずいるもので、少しずつ見つけ出すことができるようになりました。
まず外せないのは宮沢賢治。知らぬ日本人はいないほどの童話作家のあだ名は「石っこ賢さん」。農学校の先生で地質調査などの経験もあり石や鉱物にも造詣が深いことは有名な話。「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラが河原を探索しているシーンや「十力の金剛石」の雨や草原の草花が宝石に変わった時の表現は作者本人の感覚が伝わるような言葉選びが本当に素晴らしいです。鉱物宝石の物語というとほとんどの方が宮沢賢治を挙げると思います。他の日本人作家では作品数は少ないですが稲垣足穂も印象的な作家。エロティシズムとニヒリズムを用いる幻想的で独特な物語が特徴で「一千一秒物語」や「少年愛の美学」が代表作になります。さまざまな作品の中に鉱物収集を趣味とする少年(作者自身?)を描いた「水晶物語」があります。少年が鉱物に執心する描写がとてもリアルであり最後の方で石たちが会話をしている想像をするシーンがあるあたり、作者個人にも鉱物に思い入れがあることを感じます。他の作品にもある無機的な世界観も合わせて鉱物に通ずるものを感じたので挙げさせていただきました。鉱物の作品で長野まゆみを連想する方もいらっしゃるのではないでしょうか。「鉱石倶楽部」にある少年たちの繊細な心理描写を通して描く鉱物の世界は麗しい感性を感じます。小説家ではないですがイラストレーターのたむらしげるの「水晶山脈」の物語も素敵です。主人公がとある鉱物店を見つけ不思議な世界に迷い込んでいくファンタジーは、作者のイラストとともに読者をその透明感のある物語に引き込んでいきます。
海外の作家ですと過去にJ・G・バラード「結晶世界」とシオドア・スタージョン「夢みる宝石」を読んだことがあります。前者は世界が結晶化する話、後者は通常とは異なる個性の人間と夢見る水晶を巡る話となっておりますがどちらもSF小説です。両者とも結晶や水晶などを題材としておりますがそれらの特徴や魅力を語るというより異物、脅威と捉えているのが印象的です。どちらもアメリカの作家なので結晶、水晶をエイリアンや未知の病原体と置き換えると、なるほどお国柄がわかるような内容になっています。ですが文面の端から感じる冷たくて鋭い表現は鉱物的と感じます。
最近拝読しましたのはロジェ・カイヨワ「石が書く」。日本では入手が難しいと言われていたのですが新しい翻訳と美しい装丁で最近復刻しました。森や渓谷、街並みに見える石を愛でる、いわゆる風景石について著者のコレクションを例えにして語られています。日本にも菊花石のような模様のある石を特別に扱う文化がありますが、ヨーロッパでは油絵や水彩画などの芸術作品と同等のものとして認識している点が日本の感覚とは違うところです。最近は鉱物趣味が広がり模様のある大理石やガーデン水晶を同様に見る習慣は日本でも普通になってきました。ヨーロッパには山や洞窟に憧憬を抱く観念が存在しているようで、それを表現する単語に"鉱山幻想"というものがあります。日本のように山を神として祀るアニミズムの観念とは違い地中に眠るまだ見ぬ幻想に対する知的好奇心に似た憧れの気持ちのことを言います。あまり日本にはない感覚が大変興味深いです。
ここまでは過去に読んできた作品をあげてきましたが、メモの意味も込めて以下にまだ手に取ったことのない作品を箇条書きします。
*森本信男「鉱物学」
*アマデウス・ホフマン「ファルンの鉱山」
*ノヴァーリス「青い花」
*ルートヴィヒ・ティーク「ルーネンベルク」
*アーダルベルト・シュティフター「石さまざま」
*ジョン・ラスキン「ヴェネツィアの石」
*ピエール・ガスカール「箱舟」
*ブルトン「石の言語」
*ガブリエル・ゴオー「地質学の歴史」
*山尾悠子「夢の遠近法」
現在は「図説 宝石と鉱物の文化誌 伝説・迷信・象徴」を読み始めています。誕生石カード作成の際に参考にしたのですが、全ては読めていませんでした。楽しんで読んでいきたいと思います。
書物を読むたびに違う概念や世界に触れて驚いたり感心したり、自身の作品のイマジネーションに繋がることがあります。読書速度が鈍足の私ですが、地道にまだ見ぬ作品探しをしていこうと思います。
2024.6.13
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